生命の起源と進化の最新科学『生物はなぜ誕生したのか』
2017/09/16
世の中、問題は尽きない。社会は問題でできている、と言ってもいいくらいだ。それらの中には頭がくらくらするほど難しくて、そのくせ面白い問題もたくさんあって、ぼくにとっての“くらくらランキング第2位”が「なぜ私たちが今ここにいるのか?」なのだ。ここで「私たち」とは地球上の生物全体のことね。動物も植物もバクテリアも、ぜんぶひっくるめて「なんで今のような状態で生きているんだろうか」とか考えはじめると目まいがする。
生命があること自体が奇跡的なことなんだけれど、その根本的な大問題を一旦わきに置いといたとしても、不思議は山積みなのだ。
まずは生物種の数。現在確認されている生物種はおよそ120万種。未確認生物を加えると、一説には870万種との推定値がある。さらに、これまでに生物種の99.9%は絶滅したとも言われている。てことは、これまで地球上に登場した生物は87億種と見積もられる。なんと膨大なバリエーション!RNAかなんか知らんがモワッとした最初の生命が、その後87億もの変化を遂げた。なんでそんなことが起こるのか。進化とひとことで言ってしまえばそれまでだけど、具体的なイメージを想像すると気が遠くなる。最初の生命からエイヤッと30億年とすると、100年ごとに300種が生まれ、そのうち299種が消えたことになる。よくもそれほど新種を作ってきたもんだ。
多様な種ということで言えば、今現在、ヒトのような複雑な生物と大腸菌のような単純な生物とがいっしょに存在しているのはなぜか。30億年かけてヒトまで進化(変化)しましたよ、というのもすごいのだが、その一方で30億年その姿を守り続ける大腸菌もすごい。バクテリアも進化してるのかもしれないが、ヒトなんかと比べたらその変わり様に差がありすぎでしょう。変化し続けたものとずっと変わらず生き残ってきたもの、この差はどこにあるんだ。
一旦絶滅した種が再び現れるのか、ってのも悩ましいところ。たとえば白亜紀末に滅んだ恐竜。鳥に進化して生き残ったものもいたそうだが、もういっぺんでかい恐竜が現れてもよかったんじゃない?絶滅後6500万年ほど経ったが今のところ再登場していない。その内現れるのだろうか。さらに、もし地上の動物が一掃されたら、魚はまた足を生やして陸に上がってくるのだろうか?
恐竜ついでに、あれほど栄えたとされる恐竜がなぜ知的生物にならなかったのか、なぜヒトだけが文明を築けたのか。恐竜も二足歩行やで。
絶滅の話に戻ると、過去、生物の大量絶滅が何度か起きている。特に大きなものはビッグファイブと呼ばれる。いちばん強烈だったのは白亜紀-古第三紀境界(P-T境界)で、90~95%が絶滅したとされる。それでも生き延びた生物がいるのだな。100%絶滅はしなかった。生物はなんともしぶといのである。
うようよ湧いてくる不思議を説明しようとすれば、一つのキーワードしか考えつかない。「偶然」である。必然ではなくて偶然。生命が発生したのも偶然、進化したのも偶然、生き延びたのも偶然。要するに説明がつかないということ。答えをを考えるのは無駄なことなのかも知れんなあ。こんなことに思いふけっていると頭がくらくらするのである。
さて、『生物はなぜ誕生したのか 生命の起源と進化の最新科学/ピーター・ウォード、ジョゼフ・カーシュヴィンク(梶山あゆみ 訳)/河出書房新社』はそんな生物の進化を、最新の研究成果を盛り込んでまとめた生物全史。酸素濃度変化、全地球凍結と生物進化との関係、相互作用を最前面に押し出したところが特徴。科学者たちの好奇心によって、生物がどのように変化してきたかはかなりはっきりわかってきた。ただし「偶然」以上の答えはまだないように思える。研究はこれからもまだまだ続くのだ。
生物はなぜ誕生したのか 生命の起源と進化の最新科学/ピーター・ウォード、ジョゼフ・カーシュヴィンク(梶山あゆみ 訳)/河出書房新社
関連図書としてこの辺りも面白かった。
生命40億年全史
生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像 (講談社現代新書)
生命はなぜ生まれたのか―地球生物の起源の謎に迫る (幻冬舎新書)
生命はどこから来たのか? アストロバイオロジー入門 (文春新書 930)
そうだ、忘れていた。“くらくらランキング第1位”の問題は、「宇宙はなぜあるのか?」ね。