コーランから導かれるスンニ派、シーア派、スーフィズム 『イスラーム文化 その根柢にあるもの』
2017/09/16
イスラーム文化を教授することなど、井筒俊彦には勝手知ったる町を案内するといったところだろう。30以上(いくつかわからない!)の言語を流暢に操り、イスラーム学は言うに及ばず、東西のあらゆる宗教、哲学に通じ、独自の東洋哲学構築を試みた世界的碩学。司馬遼太郎をして「20人ぐらいの天才らが1人になっている」と言わしめた。『イスラーム文化 その根柢にあるもの』はあまりにも上質で贅沢なイスラーム案内なのである。
イスラームの出発点はただ一つ、最後の預言者ムハンマドが神の啓示を記録した『コーラン』である。『コーラン』によれば、神と人間との関係は主人と奴隷との関係。神は人間にどうせよとおっしゃっているのか、この聖典の解釈にすべてがかかっている。そうして、その解釈のバリエーションによって多様なイスラーム文化が展開されこととなる。
井筒によれば、イスラーム文化とは、①シャリーアに全面的に依拠するスンニー派の共同体イスラーム、②イマームによって解釈され、イマームによって体現された形でのハキーカに基づくシーア的イスラーム、③ハキーカそのものから発出する光のうちに成立するスーフィズム、これら三つのエネルギーのあいだに醸し出される内的緊張を含んだダイナミックで多層的な文化、と結論される。それが根柢である。
コーランを起点に、いかにしてこの結論に至るのかは読んでいただくしかない。本書のすごいところは、噛んで含むように書かれていること。理路をたどりやすいのはもちろん、血が通っているのである。1000年以上昔の遠い異国の人々の思考が、心情がスーッとこちらに入ってくる。読み通せば、そこにイスラームの姿が立ち昇ってくる。コーランがスンニ派、シーア派、スーフィズム、それぞれに派生していく様は感動的ですらある。
イスラームの根元に触れるのにこれ以上の教科書はないだろう。あるとすれば、井筒のその他の著作にちがいない。