知らないことを知るためにも 『人類が知っていることすべての短い歴史』
2017/09/16
人類が知っていることすべての短い歴史 / ビル・ブライソン(楡井浩一 訳) / NHK出版
先日『科学の扉をノックする』の記事を書いていたときに、頭に浮かんだ一冊があって、それは『人類が知っていることすべての短い歴史/ビル・ブライソン(楡井浩一 訳)/NHK出版』。かなり旧刊になりますが、是非ともこれも紹介しておきたいと思った次第。
分厚いし(635ページ)お高い(税込3150円)のだけれど、人類が知っていることすべて(原題ではNearly Everything)が載っているのだからそれなりの価値はある。むしろ激安と言ってもいいくらい。
科学と無縁だった作家が一大奮起し、三年を費やして、人類が真理を突き止めてきた歴史を描いたとのことだが、たった3年間でこんな本が書けるのか!と恐れ入る。とにかく凄い本です。
どれだけ凄いか、
目次
第I部 宇宙の道しるべ
第II部 地球の大きさ
第III部 新たな時代の夜明け
第IV部 危険な惑星
第V部 生命の誕生
第VI部 わたしたちまでの道のり
宇宙の成り立ちから太陽系、地球の形成、宇宙・地球を形作る物質、生命の誕生から人類の登場まで、この世界について人類が知っていること、「科学の清華」をこれでもかと網羅している。よくもまあこんな本が一人で書けたもんだなあと感心しっぱなし。サイモン・シンが30冊書いて、それをギューッと圧縮した感じ。
詰め込めるだけ詰め込んだにもかかわらず、無味乾燥な情報の羅列なんかじゃもちろん、ない。笑いながら読み進めていくことができる。というのも、レトリックが冴え渡っているのだから。面白すぎるので幾つか抜き書きしちゃう。
太陽系の規模について
地球の直径が豌豆豆くらいになる縮尺で太陽系を作図すると、木製は三百メートル先、冥王星は二・四キロ先になる(しかも大きさはバクテリア程度だから、どのみち見ることができない)。
E=mc^2について
平均的な体格の成人であれば、そのささやかな身体の中に少なくとも7X10^18ジュールの潜在的なエネルギーが収まっている。巨大な水素爆弾三十個ぶんに相当するエネルギーだ。
原子の数について
原子単位で見れば、わたしたちはみんな、おびただしい数から成り、死に際して非常に効率よく再利用されるので、かなりの多数の体内の原子―多ければ各人十億個ほど―が、かつてシェイクスピアに属していた可能性もある。
蛋白質誕生について
無作為の事象として一個の蛋白質が生成される可能性の低さときたら驚くばかりで、…、廃品置き場を旋風が吹き抜けた結果、ばらばらの金属板や部品が一機の完全なジャンボジェット機に組み合わさるようなものらしい。
細胞の複雑さについて
最も基本的な酵母細胞を作るには、ボーイング777ジェット旅客機の構成部品とほぼ同数の構成要素を小型化して、直径五ミクロンの球体内に収めたうえ、なんとかしてその球体に自己複製をさせなければならない。
さて、ようやくここからが僕が本当に言いたかったこと。本書を読み終えると恐ろしいことに気づくのだ。人類が知っていることはたったこれだけだということに。言い換えれば、知らないことがまだまだ山ほどあるということに。宇宙の本当の始まりの瞬間、宇宙を形成する大部分の物質、生命がどのようにして生まれたか、脳の働き、などなど。科学がこれまで解き明かしてきたことを知るのは面白い。でもまだわからないことがあまりにも多くあるからこそ、また科学が面白いのだ。